第一章・暗闇の世界へようこそ


さぁ、カナリヤ
お話を始めようか

1、始まりの始まり


××××年、半壊した世界。
月が地を照らす夜。
誰もが身を潜めるその静寂の中に、1人の少女が居た。
薄紫の髪を持つ少女は、瞳を閉ざし、何かを待っていた。
風が、彼女の頬を撫でた、その時。

『志鳥、聞こえる?』
「聞こえてるよ。見つけた?」
『うん、そこから真っ直ぐ5km先。だいぶ飢えてるみたい』
「了解。すぐ向かう」

イヤホンから聞こえた声を頼りに、志鳥と呼ばれた少女は跳躍する。
暗闇の中、音を立てずにターゲットの元へ走りだした。


近づけば近づくほどに、感じる異質な気配。
確実に、人間ではない何か。
たどり着いた先、志鳥の目の前に飛び込んできたのは。

「見つけたわよ、ディクター」

そう、ディクターと呼ばれるもの。
人の血肉を喰らうモノ。
日中は、普通に人間として生活をしているが、夜になると欲求を満たすだけの化け物となる。
見た目からではあまり判らないので、普通の人間では簡単に襲われてしまうのだ。
その為に、“彼ら”がいる。

「これ以上人を襲わせるわけにはいかないの。
諦めて、大人しく退治されてくれると嬉しいんだけど・・・」

志鳥はそう言うと、ターゲットをちらと見た。
ターゲットは、「あー」「うー」と言葉になっていないものを繰り返し呟いた後。
体をボコボコと変化させ始めた。
人の形を保っていたものが、徐々に崩れていく。

「まぁ、そんなすんなりといく訳ないか・・・」

そう口元だけ笑みを作ると、愛用のナイフを取り出す。
ターゲットの攻撃を避けながら、急所を探す。

(今日の急所は、あそこか・・・!!)

志鳥から見て右側、人だった頃に肩があった場所。
そこに向かって、ナイフを深く突き刺した。
すると、ターゲットは叫び声を上げ、暴れだした。
だが、こんなものでは足りない。
ディクターは、急所となる場所、「原動力となるもの」を完全に壊さなければ倒せないのだ。
だから、最後の仕上げが必要だ。

「これで終わりね」

そう言った志鳥がターゲットに向かって手を伸ばそうとした瞬間。
タ―――ン・・・と志鳥の目の前で、何かが打ち込まれる音がした。
それはターゲットの急所に吸い込まれると・・・パリンと何かを砕いた。
「ああぁ・・・」という声を残し、ターゲットは砂へと変わり消えていった。
後には、何も残らない。

暫くして、無言を貫いていた志鳥は、暗闇に声をかける。

「・・・ジェラルド〜?」
『ごめんごめん。丁度狙いやすそうなところにいたから』

イヤホンから聞こえてくる彼の言葉に、ため息をつく。
志鳥はイヤホンを外すと、後ろからやってきたジェラルドの方を向いて軽くチョップを喰らわした。
苦笑しているジェラルドにこちらもつられ、まぁ良いかと今までターゲットがいた方向を見やった。

「お休み、良い夢を・・・」




ジェラルドと一緒に組織の元へ戻ってこれたのは、もう21時を回ってからだ。
重厚そうな扉を開けると、そこに飛び込んできたのは、黒。
まずはジェラルドに飛び掛り、その後志鳥へ。

「志鳥、ジェイおっかえり〜!!待ってたよん♪」
「ただいま、スー」

急に飛び掛られ少しよろけつつも、いつものことなので笑顔で答える。
それに少女もにっこりと満足そうに微笑む。
志鳥の腰に手を回してご機嫌だ。
そこへ。

「おいコラ」
「うきゃっ」

少女の背後から志鳥たちより一回り大きい青年が姿を現した。
と思ったら、少女の首根っこを、赤い目を細めながらむんずと掴みあげた。

「ちょ、ちょっとーヤン兄何すんのよー」
「何時までそうやってる。志鳥たちがまともに中に入って来れんだろう」

まだ扉すらしまっていない入り口を見て、青年は言う。
それまでバタバタ暴れていた少女は、「ちぇー」と拗ねると、青年の手から上手く逃れ、「また後でねっ」と言って去っていった。

「ふふ、妬いてる?」
「そんなわけないだろう」

少女が去っていった方向を見ながら、志鳥がからかい気味に尋ねる。
青年もからかわれているのが判っているので、さらっと返事を返す。
これも、いつものやり取りだ。
スーとヤン。本名は絲麗(スーリィ)と炎彬(ヤンビン)。
仲の良い兄弟だ。

「早く副軍団長のところに報告に行って来いよ」
「はいはい、了解です」
「いってきますね」

ヤンに見送られながら、2人は執務室へと歩き出した。



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