第一章・運命という名の出会い


あの手のひらを覚えてる
忘れちゃいけないの、信じたいから

9、交錯


「あっという間に終わってしまいましたねぇ。
もう少し、出来る人たちかと思っていたのですが」

持ち上げすぎでしたね、とジークは右手に持っている長剣を
床に振り下ろしながら言った。
ちなみに、その長剣はジークが先ほど壁を叩いて取り出したものである。
ジークの足元には、トドの様にひっくり返っている男たちが、
「あー」だの「うー」だの唸っている所だった。

「ち、畜生・・・、貴様何者だ」
「何者ですか・・・。
ただの人間で、この事務所の所長ですよ」

バルドの質問に、ジークはちょっと考えてそう答えた。
どこがだ、どこが、と男たちは思う。
ただの所長なら、剣なんて扱えるわけが無いだろう。
それもカサロは田舎町で、治安が悪いわけじゃないだろう。
そのことを突っ込むと、ジークはけろりと言い放った。

「これは、ただの趣味です」
「「趣味ぃぃぃ!?」」

男たちのデカイ声が、重なった。
それはもう、見事に。

「まぁ、それは冗談として」
「冗談かよ!!」
「あなたたちは、クローさんの何を探りに来たんですか?」

男たちは、「いい加減キレたろか!!」とばかりに
這った状態から起き上がろうとして、固まった。
ジークの様子に変化が現れたからだ。
顔は笑顔なのに、纏っている空気が明らかに、変化した。

「ちょ、ちょっと待て待て、所長さんよ」
「どうしました?僕は、あなたたちから全てお話を
聞けることになっていると思うのですが」

ジークの、黒い笑顔が怖い。
冷や汗ダラダラな状態で、さすがに耐え切れなくなったのか
バルドが降参して叫んだ。

「・・・わぁーかったよ、言えばいいんだろ!!
俺たちは、ただの囮だ。あの嬢ちゃんを探しに来た奴らに
雇われただけだ」
「なるほど。それで、あなたたちを雇ったというのは・・・
もしかして、『マロークス』の方々ではないですか?」

ジークは、彼らが囮だったということに、大して驚きもせずに言う。
むしろ、驚いたのは男たちの方だ。
何故、自分たちが雇われたのが『マロークス』だと分かるのだ。
ジークは、男たちのその沈黙が、是の意味だと判断したのだろう。
男たちの視線をさらりと受け流して、男たちとは逆の方向に歩き始めた。
もちろん、「反省部屋」の出口ドアへ。

「お、おい、何処へ行・・・」
「それだけ聞ければ、十分ですよ。
後は、あなたたちのご自由になさってください」

ただし、とジークが続ける。

「ここから上手く抜け出せたらの話、ですけどね♪」
「・・・は?」

「では、また明日〜」と謎の言葉を言い残し、ジークは
ドアから出て行った。
暫く呆然としていた男たちだが、そんなことをしている場合じゃないと
気づいたのか何なのか、ジークが出て行ったドアに勢いよく近づいていった。
だが、ドアが開かない。
「畜生!!」とか、「何で閉まってるんだ!!」とか文句を
言っていた男たちは気づいた。
あのジークが、普通に自分達を逃がすわけが無い。

結果はいうまでも無く。

男たちは、鍵穴も無い普通のドアの前で、大音量の叫びを上げた。



「全くもう、喧しい方々ですね・・・」

そう呟きながらも、ジークは笑みが零れるのを押さえられないようだった。

「さぁ、さっさと行きますか。クローさんを迎えに来ているのは・・・、
彼だと思いますし」

ジークはそう言うと、通路を真っ直ぐ歩き出した。





ジークが、男たちと戦っている(?)頃。

「・・・ったく、ジークたち何やってんだ?
かなり大暴れしてるみてぇだけど・・・」

その内、事務所壊れるんじゃないか・・・と
思わず思ってため息をついたアルは、クローが妙に
静かなのに気づいて顔を上げた。

「クロー・・・、どうした?」
「・・・えっ!!」

クローは、ぼーっとしていたのか、肩をビクリと揺らして
こちらを振り向いた。

「ご、ごめん、何か言った?」
「いや、ぼーっとしてたから声かけただけ・・・。
大丈夫か、疲れてるんじゃないか?」
「う、ううん、大丈夫。・・・ねぇ、アル」

クローが急に真剣な顔をしてきたので、アルも吃驚して
思わず背筋をぴしっと伸ばした。
クローは、真剣だった顔を途端に悲しげに歪ませた。
本当に、コロコロと表情が変わる少女である。

「あ、あのね、アル・・・」

「本当は私、」とクローが何かを言いかけた所で
コンピュータ室のドアが激しく叩かれ始めた。

「うおっ、何だ・・・」
「ファリンです、開けてください!!」
「ファリンさん!?」

アルがドアの鍵を外すと、ファリンが勢いよく部屋に
飛び込んできた。
走ってきたのか、息が上がっている。

「何だよファリン、そんなに慌てて」
「・・・先ほど、お客様がいらっしゃったんです」

ファリンが突然話し始めたのだが、いまいち話が分からない。

「赤髪で黒コートの男です。その人は、クローさんを捜しに来ていました。
・・・クローさんの、ご存知の方ですか?」

ドクン、とクローの心音が高鳴る。
アルが心配して、クローの様子を伺う。

「・・・クロー?」
「・・・・・・知ってる」

長い沈黙の後、クローは短くそう言った。
声が、心なしか震えている。

「知ってるわ、あいつは・・・!!」

クローの叫びが、後ろからやってくる衝撃音に、阻まれた。





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