第一章・運命という名の出会い


心を閉ざしたままではいけない
本当はずっと、分かってた

10、焦燥


「な、何だ・・・!?」

アルたちが驚いて音のした方を見ると、
破壊されたドアが、小さな欠片になって舞っているところだった。

「あのドアが壊れるなんて・・・そんな・・・」

ファリンの呟く声が聞こえたが、破壊音の方が大きくて
殆どかき消されていた。
暫くしてドアだったものの後ろから現れたのは、赤髪の男。
そう、正にファリンが先ほど話していた男だった。

「・・・お久しぶりですね。まさか、あの罠から
こちらへ来られるとは、思っていませんでしたけど」

ファリンが、まず最初に口を開く。
男が何かを言う前に、アルが質問をする。

「何だよ、あいつに仕掛けられた罠って」
「・・・鉄製の槍が勢いよく降ってきました」
「うわー・・・」

アルは、ファリンの言葉を聞いて思わず苦笑する。
奴は人を殺す気か。

「別に、斬ってしまえばただの塵だろう」
「斬ったって・・・その剣でですか!?」

アルたちの会話も気にも留めずに言った男に、ファリンが驚く。
男は、左手に大剣を持っていた。
それを使っただけで、槍やドアを破壊したと言うのか。

「もしかして・・・あなたは、『マロークス』の人間ですか?」
「何だよ、『マロークス』って」
「『マロークス』は、ここから何千キロも先にある空に浮いている街です。
そこでは紋章術から召喚に至るまで、
なんでも研究している施設があると言われています。
特殊で強い人間が、王に雇われているとも」
「・・・貴様、何故そのようなことを知っている」
「私の上司に教えていただきました。
後は、独学と言ったところでしょうか」
「・・・なるほど」

そう言って目を細めた男は、今度はクローの方に顔を向けた。

「・・・クローディア・ラッガーナ。
そろそろ、負けを認めたらどうだ?マルクス王も、
いい加減痺れを切らしている」

男の言葉に、今まで無言だったクローが、ビクッと肩を揺らした。
伏せていた顔をあげ、男をキッと睨み付けた。

「・・・冗談じゃないわ。
私は、あなたたちと勝負をしているわけじゃない。
あなたたちに用はないし、今後一切関わりたくないわ」
「こちらも仕事だ。いつまでも、追いかけていられる
立場ではない。・・・マルクス王の命令だ。
強制的にでも、連れて行かせてもらおう」

男はそう言うと、こちらに近づいてきた。
あと少しでクローに届く、その時だった。

「ちょっと待てよ。クローは俺の依頼人だ。
勝手に連れて行ってもらっちゃ、困るんだよ」

そう言ったのは、アルだ。
アルは座り込んでいた体勢から立ち上がり、男の目の前に
立ちはだかった。

「そんなことは関係ない。この娘を守って、貴様に何の徳がある」
「・・・人を守りたいと思うのに徳も何もないだろ。
あるのは信念のみ。そう習わなかったか?」
「・・・この女がどういう人間か、お前は知っているのか?」
「は?」

男はアルから目を逸らすと、クローに向かって剣を突き出した。

「知らないのであれば、それでも良いだろう。
邪魔をするのなら・・・、斬るだけだ」

男はそう言うと、剣を振りかざし、アルに斬りかかろうとした。
その剣を、受け止める者がいた。



「はい、ストーップ」
「・・・え」

その暢気な声は。

「ジーク!!」「所長!!」
「はい」

アルたちの驚愕の声にも、爽やかに答えたジークは
男の方に向き直って言った。

「お久しぶりですね・・・、イージス君」
「「・・・はぁぁぁぁ!?」」

ジークが放った言葉に、ジークとイージスと呼ばれた男以外の人間が
ものすごい勢いで叫んだ。

(こいつって・・・、ジークの知り合いかよ!!)

心の中で更に突っ込みをしたアルの考えに
気づいているのかいないのか、ジークはただニコニコしているだけ。
暫くして、イージスが口を開いた。

「何故、貴様がここにいる」
「そんな事言われましてもねぇ。ここは僕の事務所ですから」
「・・・まさか、貴様が敵だとは、な」

そう言って、イージスは剣を下ろした。

「まぁ、そう言わないで下さい。
・・・とりあえず、今日は帰っていただけませんか?」
「お、おいおいジーク」
「大丈夫ですよ、この人、聞き分けいいですから」
「そうじゃなくてだな」

何か、趣旨がずれてないか。

「・・・それで俺が立ち去ると思うのか?」
「ここで戦えますか?」

イージスの言葉に、ジークが逆に質問を返す。

「こんな所で戦ってみてください。
僕の手作りの罠が発動しまくり、物は破損しまくり、
挙句の果てには、事務所陥没・・・」
「わー、わー、わーっ!!」
「・・・何ですか、アル君。最後まで言わせてくれても」
「馬鹿言ってんじゃねぇ!!」

アルは、シリアスな雰囲気に似合わない声で叫んだ。
そんなことになったら、破産する。
アルたちの様子で何となく察したのか、
イージスはため息をつくと、剣をしまった。
そして、自分が入ってきた場所(元はドアがあった)に歩き出した。

「今日のところは、引き上げよう。
今、連れて行かなくても、機会ならいくらでもある」
「その時は、どうぞよろしく」

ジークがおどけて言うと、イージスは口元だけで笑って
去っていった。

少しの傷跡と、残骸を残して。





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