第一章・運命という名の出会い


世界を敵に回しても、
私はあなたを信じているから

11、旅立ち


「まぁ、何はともあれ、皆さん怪我が無くて良かったですね」

イージスという謎の男が帰った後、アルたちはリビングに戻り、
ファリンが入れた紅茶を飲みながら一息ついているところだった。
地下で放置していた男たちは、いつの間にか外に放り出されて
いたようで、イージスが連れて帰ったらしい。

「お代わりはいりますか?」
「・・・いや、いい」

ファリンが親切に聞いたのに対して、アルはぶすっと答える。
何となく、機嫌が悪い。

「まだ先ほどのことを、根に持っているんですか。
大人気ないですよ」
「・・・何だよ、さっきのことって」

アルが、カップ越しにジークを見やる。
・・・この男は、何でも知っていそうで怖い。
ジークは、何でもないかのようにアルの方を見て言った。

「何も出来なくて悔しかったのなら、その中から
1つぐらいは出来るようになりなさい。
他人のことを考え、真っ先に行動できるのが君の
良いところでしょう。それを生かしなさい」
「・・・!!」

アルは目を見開いて、ジークを見た。
ジークは知らぬ振りをして、紅茶を飲んでいる。

(全くこいつは・・・)

アルは心の中でそう思うと、そっぽを向いて何かをぼそぼそ呟いた。
クローたちには、何を言っているのか分からないようだったが、
少なくともジークには通じたようだ。
ジークは、にっこりと満足そうに微笑んだ。

「・・・あのさ、ちょっと話があるんだけど」

アルが、次の話を切り出した。
アルは、ジークたちに自分とクローが実は同じ目的地を
目指していたことを話した。
ジークは、何かを考えるようにした後、珍しく真剣な顔をして言った。

「それはつまり、ここを出て行くということですか?」
「・・・あぁ」

そう、アルはそれを願わなくてはならなかった。
勝手なお願いだと分かってる。
恩をあだで返すような真似をしていることも。
でも、行かなくちゃいけない気がするから。

「・・・そのことなんですけど」

クローが突然そう言って、会話の途中で挙手をした。
ジークはにっこり笑って、応じる。

「はい、どうぞ」
「依頼をしても、構わないでしょうか」

クローの言葉に、アルは驚いてクローに顔を向けた。
驚いたのは、ファリンも同じだったようで、ポットを持ったまま
固まっている。

「ジークさんたちに、ご迷惑をおかけするのは分かってます。
だから、最初は依頼なんて出来ないって思った。
・・・でも、他に頼れるところが無いんです」

だから、と続ける。

「アルを、依頼人として一緒に行かせてください」

クローは、真剣な顔をしてジークを見た。
ジークが何を言うのかを、皆でしばらく待っていると。

「はい、そうしましょう」
「・・・え?」
「だから、依頼を受けるということです」

ジークは実にあっさりとそう言った。

「多少の危険は承知の上ですし、僕たちの中には
君を否定する人はいませんよ」
「ジークさん・・・」
「但し、いくつか条件があります」

ジークがビシッと指を出して言った。

「な、何ですか?」
「条件その1、僕らも連れて行くこと」
「・・・え?」
「だって、アル君だけだと危ないでしょう」

・・・そこは、否定したいところだが、否定できないのが事実で。
アルは、思わずため息をつきたくなった。

「・・・いいん、ですか?」
「問題ありませんよ、ですよね?」
「そうですね・・・」

アルは、同意しつつも、どこか遠くを見ているファリンを見た。
・・・見なかったことにしておこう。

「では、条件その2にいきますね。
クローさんの旅の目的を、出来るだけお話くださること。
プライバシーにまでは、触れません。
でも、ある程度お話を聞かないと、こちらも動きようがありませんからね」
「は、はい」
「条件その3。
・・・少しずつでいいので、僕らに心を開いてくれること」
「・・・!!」
「そうでなければ、旅は楽しくありませんしね」

こういうところは、頼れる上司っぽいのだが。
アルがしみじみそう思っていると、クローは泣き笑いの表情を浮かべて、
「はい」と返事をした。

「これから、よろしくお願いします」

そう言って、ぺこりとお辞儀をした。




「では、気をつけて行ってきてくださいね」

次の日、アルたちは旅の支度をして、事務所の前に集合した。
ファリンは、事務所のドアの前でアルたちのお見送りである。

何故、ファリンは行かないのか。

「全然、仕事が片付いていません。
このまま何の処理もせずに、事務所を離れるのはいけません」

・・・まぁ、要は仕事が思ったより、残っていたということだ。
(主に、ジークのサボりのせいだ)
とりあえず、休業するならそれなりの後処理を
していかないと、気が済まないらしい。

「後で追いかけさせていただきますから、よろしくお願いいたします」
「頑張って来てくださいね〜」
「誰のせいだと思ってるんですかっ!!」

2人の騒ぎを横目に見つつ、アルとクローは苦笑した。

「ジークさんと、ファリンさんって・・・、何か凄い」
「いつもあんな感じだよ」
「そっかぁ・・・」

クローは、ジークたちを、ちょっと羨ましく思いつつ
重ねた手を上に向けて、伸びをした。
もしかしたら、これでようやく道が開けるかも
しれないと、思いながら。

「よし、行こうかクロー」
「・・・うん!!」

アルが伸ばしてきた手を、クローは受け取った。

空は今日も、晴れていた。







<カサロ編END>





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