第一章・運命という名の出会い


心が壊れてしまわないようにと、
想うことでしか救われない

6、共通点


「だーかーらっ!!クローは彼女じゃないって!!」



朝っぱらから、何度同じ言葉を言わせれば気が済むのだ。
アルは、見知った人々に声をかけられる度、思った。

いつもの会話+「彼女」発言が、やたらに付きまとうのだ。
クローはクローで、きょとんとしてるだけなので、
余計にたちが悪い。

アルは、大きくため息をつきながら目の前のクローを見た。

市場の活気ある様に、触発されたのか何なのか、
クローは落ち着き無く動き回っていた。
これでは、初めて遊園地に来た子どものようである。

アルは、クローがどこかへ行ってしまわないように
注意しながら、クローの数歩後ろを歩いていた。

「市場って、珍しいか?」
「うん、珍しいな。私が生まれた所では、こういうのは
あまり見ないから」

うきうきと通りを歩くクローは、とても楽しそうで
何か問題を抱えているなんて、考えにくかった。

「・・・なぁ」
「なぁに?」

クローが、スキップをしたまま問い返した。
後ろは、振り向かない。

「別に、無理しなくてもいいんだぞ?」

アルのその言葉に、クローの足が止まった。
ゆっくりと振り向いたクローは、驚いた顔をしていた。

「1人で行くことには、反対はしない。
クローが決めたことなんだからな。
・・・たださ、無理に笑うことだけはするなよ。
言いたいことがあるんだったら、別に言ってもいいんだしさ」
「・・・うん」

クローは、それだけ言うと、市場から少し離れた場所にある
川原に向かって歩き出した。

「私ね・・・、本当は1人で行けるか、凄く不安なんだ。
私のこと追いかけてくる奴はいるし、目的の場所は
相当遠いみたいだし。
・・・不安だよ、いつだって」

クローが川原にたどり着いて、すとんと腰を下ろすと、
アルもその隣に座った。

「クローさ、これから何処に行くんだ?」
「え?えっと・・・、今から特に何処に行くって
決めてるわけじゃないけど、西のほうに行こうかと思ってる」
「西?」
「うん、そっちに目的の場所があるの」

そこまで言うと、クローはアルの方に向けていた顔を
空に上げた。

「行かなくちゃいけないの、絶対に」

クローのその真剣な顔を見て、何かを考えていたらしい
アルが、静かに言った。

「一緒に、行かないか・・・?」
「・・・え?」

アルの突然の発言に、クローはわたわたと慌てた。
正直、そういう展開になるとは考えていなかったからだ。

「いや、実は俺も旅に出ようと思ってるんだ。
自分の記憶探しの、旅にさ」
「記憶、探し・・・?」
「あぁ。俺の記憶、どうも曖昧なんだよな」

アルは、胡坐をかいていた足を伸ばし、後ろにごろんと転がった。

「自分の名前と、1つの単語以外、まともに覚えているもの無くってさ。
いつかは、絶対探しに行ってやるんだって決めてた。
で、俺が探しているものも、西にあるんだ」
「そう、なんだ・・・」
「あぁ、別に深刻に考えなくていいって。
そうだ、クローの目的地って?意外に同じ場所だったりして」
「う〜ん、同じなんてあるかなぁ?
私、実は西にあること以外、何も分かってないの」
「あ、俺もそうそう。
じゃあさ、試しに同時に言ってみようって」

微妙に和やかな雰囲気になってきた所で、アルがそう提案しだした。
クローはちょっと考えた後、「いいよ」と答えた。

「よし、いくぞ。せ〜の・・・」



「「シオン・リコーデ」」



「・・・え!?」

同時に発した言葉は、見事にシンクロした。
アルとクローは、お互いの言葉に驚いて、勢いよく
顔を見合わせた。

丁度その時。



ビーッ、ビーッ、ビーッ!!



「・・・何の音?」
「・・・呼び出し音。多分、事務所の方で何かがあったんだと思う」
「え!?じゃぁ、戻らなくちゃ!!」
「そうだな・・・、さっきの話はまた後で」

アルはそう言うと立ち上がって、事務所の方に向かって走り出した。
クローもそれに続く。

「・・・なの?」
「え?クロー、何か言ったか?」
「・・・ううん、何でもない」

クローは、呟いた言葉がアルに聞こえなかったことに
ほっとしながら、「早く行こう」と促した。





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