第一章・運命という名の出会い


どんなに挫折したって、
道は見えるって、信じてるから

5、優しさ


朝日、小鳥のさえずり、子どもの笑い声。
それらにより目を覚ましたクローは、ボーッとする
意識の片隅で、良い匂いと何かが動く音を感じ取った。

「―――・・・っ!?
い、今なん・・・じ・・・っ!?」

というかここ何処!?と、寝ぼけた頭で起き上がって、
そういえばこの部屋には、時計が無いことを思い出し、
ついでに、ここが何処なのかということも、瞬時に思い出した。

「・・・あぁ、そっか」

ここは、アルたちの住んでいる事務所だ。
あれから何だかんだで、3日経ってしまった。
なかなか、言い出すチャンスが無いせいだったりするのだが。
それを思い出した後、いつまでもこうしてはいられないと、
クローは、部屋から飛び出した。

いくらなんでも、客の身でありながら寝すぎなのは申し訳ない。

慌てているとは言いつつも、昨日教えてもらった洗面所で
顔を洗い、身だしなみを整えてから、早足でクローは
音がする方へ向かった。

「お、おはようございます!!」

リビングに入って早々、勢いよく挨拶を叫んだはいいが、
肝心の3人が居ない。
不思議に思い、辺りを見渡すと、リビングの隣の台所の方から
「おはようございます」と優しい声が返ってきた。

クローがぱたぱたと台所の方に向かって見ると、
ファリンがフライパンに卵を割り入れている所だった。
どうやら、ファリンが朝食を作っていたようだ。
・・・ちゃんと、皿や椀の数が4つあるのが嬉しい。

「あの、私寝坊しましたか?」
「いいえ、私もさっき起きてきたばかりです。
むしろ、もっと起きるのが遅い人が約1名いますから」

ファリンがそう言った後に、タイミング良く
どこかから朝にしては派手な音がクローたちの耳に飛び込んできた。

「あの音は・・・?」
「あれはアル君が、所長を起こす音です。
・・・今日も派手にやらかしてますね」

ファリンの呆れた顔を見て、クローはこれが日常茶飯事なのだと
いうことを察した。

「・・・大変そうですね、起こすの手伝ったほうがいいですか??」
「いえいえ、大丈夫ですよ。寧ろ、あの部屋には入らないほうがいいですから」
「?」
「所長の部屋は何が起こるか分かりませんからね。
それに・・・、今部屋に入ったら、アル君の鬼の形相を見るだけですし」
「・・・え、アルだけですか?ジークさんは?」

ファリンの説明に、クローがズレた質問をしてきたが、
ファリンはそれには構わず、律儀に返答した。

「所長はですね、寝続けるんですよ。アル君の怒りなんか気にもせず。
・・・低血圧ですからね、それはもう」
「酷いんです・・・か?」
「酷いなんてもんじゃありませんよ?
アル君が物を投げつけようが、暴言を吐こうが、さらりと交わして。
それも、そのことを全く覚えていないものだから、アル君が
怒るのも当たり前ですね」

ファリンはそう言いながら、レタスを手でちぎっている。
クローは慌てて「手伝います」と言って、隣で朝食の準備を手伝い始めた。



ファリンと一緒に作った食事を、ダイニングテーブルに運んでいると、
アルとジークがのろのろと部屋に入ってきた。
どうやら決着がついたらしいが、朝から疲れた顔をしている
アルを見ると、なんだか可哀想な気がする。

「おはようございます、クローさん」
「おはようございます。アルも・・・えっと、大丈夫?」
「はよ・・・。いつものことだから大したことねぇよ。
・・・ていうか、ジーク!!」
「何ですか??」
「あんたはいい加減、努力ってもんをしてくれ。
俺たちが疲れる」
「努力はしてますよ?夢の中で」
「あんたの頭の中を見てみたいぜ、是非とも」

朝だからなのか、それともジークと戦ったからなのか
分からないが、アルはいつもよりイライラしている気がする。

いや、いつもよりとはいっても、昨日会ったばかりだが。

「ほらほら、いつまでも喧嘩してないで。朝食が冷めますよ?」

ファリンが台所から出てきて、そう言いながら
クロワッサンとロールパンの山盛りを、テーブルに置いた。






朝食の時間は、昨日の夕食の時のように、世間話や
仕事の話で進んでいた。
このような話はいつものことなのだと、クローは教えてもらっていた。
時折、クローが話に入れるように色々と教えてくれたりするが、
クローのことについては、誰も触れようとはしなかった。

・・・否、クローから話を切り出すのを待っているようだ。
自分達が質問をして、クローが無理に話をし出すのは避けようという、配慮らしい。

クローは、彼らの優しさに感謝しつつ、思い切って自分の話をし出した。

「あの・・・、依頼のことなんですけど」
「そのことですけどね」

クローの言葉を遮って、ジークがにっこりと微笑みかけた。
クローがようやく話し出したのを遮るとは何事だ、とアルは
フォークを動かす手を止める。

「クローさんは、依頼をされないつもりなんですよね?
それで近々、ここを立つと」
「・・・はい。でも」

がしゃん。クローの言葉の途中で、アルが盛大にフォークを
取り落とした。
3人の視線が一気にアルの方を向く。

「アル君」
「・・・悪い」

ファリンに咎められて、アルは小さく謝った。
話が完全に途切れてしまった。
クローは苦笑しつつ、話を進めた。

「でも、すぐに立つわけには行かないんです。
実は、ここに来るまでに食料や薬が尽きてしまって・・・。
次の町に行くのにどのくらいかかるか分かりませんし、
出来たらお店を紹介して頂きたいな、と」
「あぁ、そういうことですか。
でしたら、アル君を連れて行ってください。
アル君なら、市場を良く知っていますよ」

ジークが手のひらを上に向けて、アルの方を示した。
「俺かよ」と思いつつ、別に市場を案内することは
嫌ではなかったので、落としたフォークを机の上に置いてから
クローに聞いた。

「―――・・・飯食い終わったら行こうと思うんだけど、いいかな?」
「・・・うん、ありがとう!!よろしくお願いします」

クローは嬉しそうに、ぺこりと頭を下げた。





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