第一章・運命という名の出会い


願い、見つめることしか出来ないとは、
なんて辛いことなんだろう

4、不安と幸せ


いろんな意味で、納得してなさそうな顔をしたアルに、
うっかり笑いそうになりながら、クローは空室に案内されていた。
アルの機嫌が悪い理由は、まぁあれだ。
ジークのいつもの、のほほんとしたあの態度だろう。

クローも正直、今の現状が良く分かっていなかった。
アルにこの事務所に連れてきてもらって、ジークたちに
助けられたのは、分かる。
だが何故、こんなことになっているのかは・・・謎だ。

まだ、ジークに依頼をしていない。
ここまで迷惑を掛けていて、何故更に親切にしてくれるんだろう?

「ここがお客用の空室。
・・・クロー、どうした?」
「・・・え!?う、ううん、なんでもないよっ!!」

アルに声を掛けられて、クローはやっと目的の場所に
辿り着いたことに気がついた。
ボーっとしながら歩いていて、全然気づいていなかった。

クローのその様子に、アルが不思議そうに首をかしげつつ、
部屋のドアを開けて中にクローを招き入れてくれた。

先ほどまで居たメイン室とは違い、部屋は
かなりシンプルな作りだった。
・・・まさかここにまで、罠が仕掛けられて
いないだろうかと、ちょっとドキドキするが。

いや、かなりドキドキだろうか。

クローは、そのことを聞いておいたほうがいいかと
アルの方に向き直ると、何やら神妙な顔をした
アルと目が合った。
どうやら、先ほどジークに感じていた不満の顔とは違うようで。
今度は、クローがアルに尋ねる番だ。

「どうしたの?」
「いや、さっきは・・・悪かったな」
「・・・?私、気にしてないよ、罠のことなんて」
「じゃなくて!!・・・まぁ、そのことも
謝らなくちゃいけないけど」

確かに、初めて見た人にとっては
ジークが仕掛けた罠はショックであり、
デンジャラスなものであったろうが。

それだけじゃなくて。

「さっき、クローのこと・・・、
その、さ。怒っただろ?」
「・・・うん」

先ほどの、「出て行く」と言ったことに対してだ。

「クローにはクローの事情があるはずなのに、
俺、そんなこと全然考えてなかった」
「そ、そんな私こそ!!
・・・出て行くなんて、軽率に言っちゃいけなかった。
私はみんなに、あの人たちから助けてもらってたのに」

クローは、アルに怒られてから、ずっと考えていたのだ。
もしあの場で、クローがアルたちの元を離れていたとしたら、
それはアルたちの思いを裏切ることになっていたかも
しれないと。

アルは、クローのことを男たちから救い出してくれて、
この事務所に連れてきてくれた。
ジークとファリンは、クローが追われている存在だと
分かっても、決して追い出そうとはしなかった。

3人は、クローのことを助けようと、動いてくれたのだ。
もしそれが、自分たちを傷つける結果となったとしても。

「・・・ありがとう」
「え?」
「ありがとう、本当に。・・・嬉しかった」

クローはそう言って、初めて心からの笑顔を見せた。
クローのその笑顔に何を思ったのか、アルは少し
驚いたような顔をして、そっぽを向きつつ、「いや、別に・・・」と
何かもごもご言い出した。
その顔が、赤かった様な気がしたのは、気のせいだろうか?

「じゃあ、クロー、おやすみ」
「おやすみなさい」

逃げるようにしてばだばだと部屋を出て行ったアルを
微笑みながら見送って、クローはベッドに背中からダイブした。

「本当は、ずっとここに居ちゃいけないって分かってるん
だけどな・・・。でも」

今日だけは、甘えてもいいかな。

クローは、そんなことを思いつつ、眠りに着いた。



だんだんと闇が近づいているのも知らずに。







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