第一章・運命という名の出会い


夢を見なければ
まだ知らずに済んだかもしれないのに

15、続いた先の


「はい、連れてきました」
「ありがとう」

アルが少女にカイを手渡すと、少女はそっと大事そうに抱きかかえた。
それを見てから、「あと」と続ける。

「これも探しものですよね」

そう言って、アルは少女の前にキラリと光る物を差し出した。
それは、赤いリボンがついた鍵だ。
さっきカイの口からこれがぶら下がっているのを
見たときは、ぎょっとしたものだ。
一瞬、何を銜えているのかと思った。

「あぁ、ありがとう。この子が銜えていたんでしょう?」
「そうですよ、全く・・・。飲み込んでいたら、どうするつもりなんだよ」

そう呟きながら、カイの方を見ると、
「いたずらっこだなぁ」と軽く額を突っついてやった。
カイは「にゃぁ」と鳴くと、少女の腕から肩に移動した。
耳も尻尾も垂らして・・・、反省中なのだろうか?
思わず噴出すその姿を見て、少女もクスクスと笑う。

「あ、すみません」
「ふふ、いいのよ・・・あなた、面白い子ね」

アルが慌てて謝ると、少女はそう言って、鍵をゆらゆら揺らした。
面白い『子』って・・・と心の中で思いながら、そういえば
自己紹介というものを全くしていなかったことを思い出す。
この少女の名前も、知らない。

「あ、あの・・・俺、アルヴィーン・レドラスと言います」
「アルヴィーン君と言うのね。私は・・・」

少女は少し考える仕草を見せると、くるりとその場で回転してみせて言った。

「リリー・ジャシュマン。普通にリリーって呼んでくれて構わないわ」
「リリー・・・さん」
「そうそう」

アルがぎこちなく名前を呼ぶと、少女 ――リリー―― は嬉しそうに笑った。
本当に良く笑う人だ。
同じように良く笑う奴なら身近にもいるが・・・
まぁ、同じようなタイプだろうか。

「アルヴィーン君たちは、旅をしているの?」
「あ、はい、そうです」
「そう、良いわね。これから何処へ行く予定?」
「えっと、アムーゼルここで色々調達したら、ラザー・・・何だっけ?
確かそこに行くことになってたはずですけど」

アルは「なんだったっけか?」と首をかしげる。
はっきり聞いたはずなのだが、肝心の名前が思い出せない。
うんうん唸っていると、リリーが助け舟を出してくれた。

「『ラザーハイツ』、空中都市ね。
あそこは観光客も多いし、とても綺麗なところだから探しものも見つかるかもしれないわね」
「そうなんだ・・・って何で」

そんなこと知っているんですか?
そんな疑問が顔に出ていたのか「だってそうでしょ?」と
リリーはカイの頭を撫でた。

「旅をするということは、何かを探すということ、取り戻そうということ。
大なり小なり、失ったものがあるから足を進めるのよ」

まぁ、一概には言えないけどね、とリリーは言ったが、アルはその言葉に心当たりがある気がした。

逃げてきたクロー。敵がいるという事実。
依頼をしてきたこと。本音が、見えないところ。
もしかしたら、クローは何か失ったのではないか。
それも、特別大きな。

(・・・何だ?)

そこまで考えてアルは、違和感を覚えた。
何かこう、どこかが傷むような。

「どうかしたの?」
「・・・!!」

リリーに声を掛けられて、我に返る。
うっかりぼうっとしていたらしい。
「やばっ」と思ってリリーを見ると、本人は至って気にしていない様子で、カイと戯れていた。

「す、すみません・・・」
「良いのよ、気にしなくて。
あなたの考えてる姿、じっくり拝見させてもらったわ」
「や、やだなもうー」

あはは、とアルはその場を誤魔化す。
十分戯れて満足したのか、足元にいたカイを再び肩に乗せると
リリーはずいっとアルの側に近づいてきた。
口元に人差し指を当て、「静かに」のポーズを取ると、囁くように言った。

「あなたも何かを抱えていそうね。
・・・ちょっとした闇を」
「・・・え!?」

リリーはまさか自分の事を知っているのか!?
そんなことを思ったが、リリーは特にそれ以上言うでもなく、
アルからすっと離れた。

「さて、そろそろ行きましょうか。
アルヴィーン君もそろそろ部屋に戻った方が良いわ。
あまり外に出てると風邪をひくわよ」
「え、あ、はい。そうですね・・・」

確かに、そろそろ戻った方が良いかもしれない。
でも、アルは何故かリリーともっと話をしていたい気分だった。
この少女は、何かを知っている。
そんな気がしたからだ。
とはいえ、長く留めておく訳にはいかない。
「じゃあ」とでも言って、宿に戻ろうとしたら。

「またね、アルヴィーン君。お休みなさい」

そう言って、ひらひらと手を振って行ってしまった。
黒の少女は、あっという間に夜に紛れた。

「またね」って何だよ、「またね」って・・・。
また何処かで会える、ということなのだろうか?
まぁ良いや、とアルは伸びをした。
明日はどんな旅になるんだろう、と思いながら。






リリーは、アルたちが泊まっている宿から真っ直ぐ歩いていた。
大分離れただろうか。
カイはじっとリリーのことを見たかと思うと、突然口を開いた。

「・・・あんまりからかってやるなよ、慌ててたぞ」



―――・・・読者の方々、お忘れかもしれないがカイは猫である。
普通に喋っているが、別にこの世界の猫全てが喋るわけではないので、そこは勘違いなさらないよう―――



「何よ、良いじゃない。可愛いものだわ」

リリーはそう言うと、くすくす笑う。
カイは「あのな」と言うと、リリーの肩から飛び降りた。

「あんまり色々言うと、あいつ混乱するだろうが」
「だから、ちょっとだけにしておいじゃない。
言葉の端々に混ぜ込んで♪」

ご機嫌な様子のリリーに、カイは心の中でため息をついた。
リリーのこんな態度は、今に始まったことではない。
リリーは元から、こんな性格なのだ。

「ところでさ・・・あいつ・・・、大丈夫なのか、あれで」
「さぁ?あの子もまだまだ子どもね」
「子どもって・・・言ったら、あいつ怒るぞ」
「ふふ、そうね。
でも、あの子が怒るの見るの、結構好きなのよ、私」
「いやいや、笑いごとじゃねぇだろ」

カイに突っ込まれて、さすがに笑いすぎと思ったのか、
唇の端を上げるだけに留めた。
まぁ多分、そんなことは思っちゃいないのだろうけど。

「さて、これからどう動くかなのだけど・・・」

リリーはそう言うと、カイの耳元に口を寄せて、何かを伝え始めた。
カイは首を傾げて、それを聞く。

「・・・了解、マスター」

そう言うと、ひらりと跳躍した。
リリーは、カイに向かって「いってらっしゃ〜い♪」と手を振った。
そうして暫く経った後。

「・・・さぁ、歌でも歌って行きましょうか」

そうひとりごちると、歌を口ずさみながら闇の中に消えていった。
月の綺麗な、夜だった。






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