第一章・運命という名の出会い


これ以上に裂かれることなんて
もうないと思っていたのに

14、黒は続く


宿に行って部屋も無事に取れて、やっと落ち着いた。
はずなのに。


・・・この空気はなんだろう?


アルは、さっきから居た堪れない気持ちでいっぱいだった。
食堂に入って、それぞれ食べたい物を頼んだはずなのだが、
そんな美味しそうな料理もなかなか手を付けられずにいた。
というか、両側にいる2人が、可笑しい。

クローは、ぼけーっとしたままフォークを皿にぶっ刺したまんまだし、
ジークは食は進んでいるんだけど、妙にニコニコ笑っている。
いつもより30%増。
なんかもう。

(怖・・・っ!!)

そう、これはもう、どちらかというと怒っているに近いと思うのだ。
機嫌が悪いというか、何というか。
アル自身も、見たことがないパターンだったので、何とも判断しかねるが。
それにしても。
先ほどまでの何処に、怒る要素があったのやら。
アルは、2人に気づかれないようにこっそりとため息をついた。



どうにか食事を終らせて(クローには、あまりにも反応がなかったので、デコピンをくらわせてやった)、
アルとジークは部屋に戻ってきた。
ちなみに、クローは隣の部屋だ。
・・・1人で大丈夫なんだろうか?
放っておいたら何も無いところでコケてそうな気がする。

「・・・さて、僕は風呂へ行ってきますが、アル君はどうしますか?」
「あー・・・、いいや、俺もう寝る」
「そうですか、分かりました」

では行ってきますね、お休みなさいと言い残し、
ジークはドアの向こうへと消えた。
食事の時とは違い、いつもの飄々とした態度に戻ったようだ。
そのことに、まずほっとする。

「・・・ホントに寝ちまおうかな・・・」

考えたいことは色々あるが、正直疲れた。
それはもう、色んな意味で。
アルは思い切って布団に潜り込んだ。



暗闇の中、アルは目を覚ました。
何時だろう、と時計を見ると、夜中の2時過ぎ。
起きるには、まだまだ早い。
水でも飲もうかと起き上がると、アルは窓から光が差し込むのを感じた。
やけに明るいと思ったら。

「満月だ・・・」

思わず引きつけられて、アルは窓辺に近づいた。
すると。

「ん・・・?」

先ほども言ったばかりだが、今は夜中の2時だ。
ライトと空に輝く星以外には光は無く、
人も動物も(基本的には)寝静まっている時間だ。
だが、窓から見たアスファルトには明らかに誰かいて。
とはいっても、全身が黒で姿は見にくいのだが。
それでも誰なのかは分かる。

思わず、窓を開け放ってバルコニーまで飛び出していた。

「さっきの・・・っ!!」

そう叫んでから、その声が妙にでかかったと気づく。
表情が固まったまま後ろを振り向くと、
・・・あぁ大丈夫だ、起きてない。
ジークが寝ていることに安心して、もう1度アスファルトを覗くと、

「こんばんは、少年。良い夜ね」

『黒』の少女が、立っていた。



「あの、どうしたんですか、こんな夜に」

アルは、バルコニーから(一応、窓を閉めてから)
そう少女に声をかけた。
少女はにっこり笑うと、すっと眼前を指差した。
正確に言うと、それよりちょっと上だろうか。

「カイがいるの」
「カイ?」
「私の猫よ。昼間に見たでしょう、黒猫の」

そう言われて、キョロキョロと見回してみると、
なるほど、確かに1階の屋根付近に、暢気に歩いている奴がいる・・・ような気がする。

「その子を捕まえて欲しいの。
あなたのところに行くと思うから、抱きかかえて連れてきてくれないかしら」

お願い、と言われてしまっては、仕方がない。
アルは首を縦に振ると、猫がこちらまでやってくるのを待った。
つい最近やった仕事に多少デジャヴするが、まぁ気にしない。

猫は、のんびりと屋根を伝ってくると、アルがいるバルコニーまで華麗にジャンプした。
見事な跳躍力である。
暴れないかとちょっと不安に思いながらもそろそろと近づくと、猫は素直にアルに抱かれて丸くなった。
案外おとなしい奴である。

アルは部屋に戻ると、ジークを起こさないようにそっとドアを閉めて、下の階へ降りていった。





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