第一章・運命という名の出会い


あのガラスは
薄いと思っていたのに、とても厚くて

13、白と黒


駅に着き、宿に荷物を置いてきたアルたちは
とりあえず町内を歩いてみることにした。

「何か・・・すげぇ賑やかだな」

アルがそう呟くと、その声を聞きつけた1人の少女が近寄ってきた。
少女は長い髪を三つ編みにしていて、沢山の花が入った籠を持っている。

「そりゃあそうよ。今日は実生祭みしょうさいですもの!!
自然の神様に村人みんなで感謝する日なのよ」
「実生祭?」
「植物は種から芽を出し、成長する・・・。
自然に感謝すると共に、人間の生命の豊かさにも感謝する日ですね」
「まぁ、お兄さん、良く知ってるわね!!」

ジークの言葉に、少しおませな少女はそう言って笑った。
周囲を見回すと確かに、どの家にも草花が賑やかに飾られている。
町人は皆嬉しそうで、花を身につけている者が多い。
そうして周囲を見回していると、クローが何かを見つけたようで
首を傾げた。

「あの人は・・・?」
「え?・・・あぁ」

さっきまでにこにこしていた三つ編みの少女は、途端に嫌な顔をしてため息をついた。
視線は、この町でも有名な巨大噴水の方に向いている。

「最近居座り始めたのよ、あの人。
全身真っ黒で、喪服みたいでしょ。黒猫まで連れちゃって、
気味が悪いったら・・・」
「・・・って、ちょ、クロー!!」

少女の言葉が途中なのにも関わらず、クローが走り出した。
あまりにも突然だったので、一瞬呆けるアルたちだったが、すぐに切り替え。
「ごめんな!!」と三つ編みの少女に言い残し、クローの後を追う。

「一体何なんだよ、もう・・・」
「本当にどうしたんでしょうね〜?」
「・・・あんた、何か知ってるだろ」
「さぁ?」

暢気なジークと話をしているうちに、クローの背中が見えてきた。
どうやら、クローは巨大噴水の前にいるようだ。

「クロー、何して・・・」

アルはそう声を掛けようとして、クローが何かに聞き入っている
ようだったので、口を閉ざした。
三つ編みの少女が話していた『黒』が、そこに居た。


それは、気味が悪いというより異様な存在だった。
藍色の髪に赤色のカチューシャ、それ以外に身に着けている
ものは全て黒で。
足元には1匹の猫。
アルやクローとそう歳は変わらないだろう少女は、噴水に
腰掛けて歌を歌っている。

『カナリヤの森に導かれ
暗き夜を偲んで口ずさむ
あなたと出会い気づいたわ
月も影を映すことを』

目をつぶり、静かに歌い続ける少女の声を聞いていた
アルだったが・・・、言葉が全く分からない。
まだ、彼女は聞いているだろうか。
横のクローを確認すると、彼女の口が微かに動いているのが見えた。

(・・・クロー?)

それは、ただ口を動かしているのではなかった。
口からは音が漏れ、それが黒服の少女と同じ音を奏でている。
クローは、歌を歌っていたのだ。
アルには知らない言語で。

(あれ、これって)

どこかが、痛んだ。

(何て言うんだっけ・・・?)

「クローさん」

そんな声がして、はっと目が覚める。
クローも吃驚して、後ろのジークを振り返って見ている。
声を掛けたのは、ジークだったようだ。
クローは、2人の存在にやっと気づいたようで。

「は、わわわ・・・!!
アル、ジークさん、ごめんなさい!!」
「いえいえ、お気になさらないで下さい。
・・・そしてアル君」

ジークがこちらを見た。

「あなたも、何をボーっとしていたんです?」
「あ、あぁ・・・悪ぃ」

アルはバツが悪そうに、両手を顔の前で合わせて謝った。

すると、背後でクスクスと笑う気配が。
一斉に振り向くと、先ほどまで歌を歌っていた少女が
口元に手を当てて可笑しそうにしていた。
笑うたびに、手元のフリルが揺れる。

「あぁ、ごめんなさい。つい笑ってしまったわ。
面白いわね、あなたたち」
「え、あ、いや・・・」

その雰囲気にアルたちが何も答えられないでいると、
少女は立っていた場所からすたすたとこちらへ近づいてきた。
目の前で歩みを止めると、またにっこり笑う。

「最後まで歌を聴いてくれてありがとう。
とっても嬉しかった」
「こちらこそ、素敵な歌声を聞かせていただき、ありがとうございました」

少女の言葉に、今度はジークがしっかり答える。
アルのしどろもどろな答えとは大違いだ。

「ねぇ・・・、ところであなた」
「わ、私?」

少女が自分の方を向いてきたので、クローは確認のために自分を指差す。
「そう」と少女は頷き、こう聞いてきた。

「あなたも、あの歌を知っているのね」
「・・・え?」
「だって、口ずさんでくれていたものね、『月夜の森の唄』」

最初は、言われていることの意味が分からなさそうだった
クローが、途端に口元を手で覆う。
どうやら自分で歌っていることすら、気づいていなかったようだ。
固まってしまったクローの心情を知ってか知らずか、
少女はクローの手を握り、自分の顔の前まで引き寄せた。

「覚えていてくれる人がいて良かったわ。
あれは、もう忘れ去られた歌だから。
・・・ありがとう、これからも忘れないでいてちょうだいね」

そう言うと、少女はクローから手を離した。
傍らに居た黒猫に手を差し伸べ、肩に乗せる。
そして一言も発さず、ひらひらと手を振りながら行ってしまった。(鼻歌付き)

「・・・何だったんだ?」

噴水の前には、様々な顔をしたアルたちご一行が残された。




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