第一章・運命という名の出会い


―――あなた達を信じてる。
いつか、また巡り会えると。

1、君と出会えて


少年、アルヴィーン・レドラスは現在、目の前の敵と戦っていた。
敵は、アルのことなどお構い無しに、悠々とそこら辺を歩き回っている。
アルは、奴を睨みつけたまま動かない。
タイミングを見計らっているのだ。
奴と戦うのもこれで数回目だ。嫌でも奴の行動パターンは読める。
奴にはお気に入りの場所があった。
そこにさえ行ってもらえれば、こちらのものなのである。
すると、奴がそこで足を止めた。

(・・・よっしゃ、今だ!!)

がし。

「ぎにゃ―――っ!!」
「・・・わっ!!おいこら、おとなしくしろって!!」

アルは自分の腕の中で暴れる奴(=猫)を宥めた。
毎回毎回同じ行動パターンを取っては、こうして掴まっているこの猫には
学習能力は無いのかと、アルは呆れてしまう。
まぁ、だからこそ捕まえやすいのだけど。
今回も引っかかれまくった腕を擦りながら、アルは依頼主の元へ向かった。




依頼主に猫を渡し終わった後、アルは依頼主からのギャラを手に持ち、
ある所に向かっていた。
目的地に着いたアルは、目の前の建物を見上げてため息をついた。
建物は、2階建ての古びた作りになっている。
門には「なんでも屋」の看板が掲げられている。
アルは門を開け中に入り、外階段を使って2階に上がっていった。
1階は仲間がくつろいだり、依頼を受けるリビングになっているが、
2階は・・・まぁ、何というか殺伐としている。
2階に辿り着いたアルは、まず入り口にある機械に
暗証番号を打ち、それから進み出した。
そうでもしないと、誰かさんがしかけた罠に襲われるからである。
そう、外装は古びた作りだが、建物の中はやたらに
都会的というか、未来を予想させるものであった。
長い廊下を進んでいくと、一番奥に大きなドアがあった。
そこがアルたちが依頼収集を行う場所である。
アルは、適当にノックをして中に入った。

「ただい―ま―・・・」

アルは部屋に入った後、一瞬固まった。
中にはファリン・テルト―アルの先輩だ―が1人居るだけで、
他には誰も居ない。
ファリン本人から微妙な殺気を感じるのは、
きっと気のせいでは無いだろうと思いつつ、アルは恐る恐る
話しかけた。
怒っている理由など、1つしかないような気がするのだが。

「・・・ファリン、どうした?」

ついでに、肩をぽんぽんと叩いて慰めるのも忘れない。
すると、ファリンはアルの声にゆっくりと振り向いて、
静かに静か〜に、語り出した。

「・・・アル君、所長見ませんでしたか?」
「え、あ、いや」
「・・・見てないですか」
「み、見てないけど・・・ファリンさん?」

大袈裟なほどため息をついたファリンを見て、アルは
心配になってしまう。
ここの所長はいつもこうやってファリンを困らせる。
・・・つまり、所長がやっているのは、脱走という名の
「サボり」である。

「・・・仕事しないで、どっかに行っちまったのか?」
「・・・いいえ、仕事だけはきっちり・・・」

終わらせていったのか、あの男は。
確かに、机を見てみれば綺麗に片付いている。
(まぁ、ある程度はファリンが片づけたのだろうが)
あれだけ何処かにふらふらと歩いていくくせに、
一体いつ仕事をしているのだろうか。
・・・毎日見ているアルでも不思議な男だと思う。
そんなことを考えていると。
がちゃり。

「あ―――っ!!所長、何処に行っていたんですか―――っ!!」

ファリンが早速怒鳴る。
ドアからにっこり顔で現れたのは、「なんでも屋」の所長の
ジーク・レスターシャーである。
とにかく、所長としての仕事はきっちりしていくのだが、
逃走癖が酷い。
一体、逃走先で何をしているのやら。

「ただいま帰りましたよ、はいこれお土産です」
「お土産です、じゃないですよ!!というか、人の質問に
答えてください!!」

そう言いつつも、お茶の用意をしてしまう辺り、ファリンも
どうかと思うのだが。
ジークに怒鳴ってばかりのファリンだが、これでもジークの
ことを尊敬しており、真面目な時のジークは・・・
あまり思いたくないが、かっこいいとアルは思っている。
真面目にやりさえすれば、である。

「はい、どうぞ」

かちゃん、とファリンが紅茶の入ったカップを置く。
ジークが買ってきたクッキーとマフィンも一緒である。

「サンキュー、ファリン」「ありがとうございます」
「どういたしまして。・・・あ、そうでした」

ファリンがふと思い出したように呟く。

「アル君、後で買い物をお願いしてもいいですか?」
「いいけど・・・、何かあったのか?」
「ほら、1階に置きっぱなしの移動ロボ、壊れちゃってる
じゃない?所長が誰かから貰ったらしいですけど・・・。
こまめにケアしないから、埃が入っちゃったらしくて・・・」

故障したと、そういうわけなのだ。

「・・・で、何を買ってくればいいんだ?」



アルは、ファリンに渡されたメモを持って、市場に出かけた。
アルたちが住んでいるカサロは、田舎町だが
人々は優しく大らかな人が多いので、過ごしやすい町と
いえるだろう。
何処かで戦争をしている国に比べれば、ずっとマシな生活を送れている。

「あら、アル君。今日もお仕事?ほら、これ持って行きなさい」
「よぉ、アル。いつも大変だな。ジークさんとファリンさんによろしくな!!」

市場では、アルのことを見知っている人たちが沢山声をかけて
くれては、おまけを付けてくれる。
だから、アルが買い物から帰るときは、いつも物が多い。
お礼を言いつつ、アルは買ったものと貰ったものを
落とさないように持ち直そうと一瞬荷物に目を向けた。
その時である。

「・・・きゃっ!!」
「うわっ!!・・・っと」

誰かとぶつかったような音がしてアルはよろけながらも踏ん張った。
声からして、ぶつかったのは少女のようだった。
アルは慌てて声がした方に手を差し出した。

「わ、悪い、大丈夫か?」
「だ、大丈夫です。ありがとうござ・・・」

アルが差し出した手によって何とか立ち上がった少女は、
アルを真正面から見たとたんに目を見開いた。
というか、固まった。

「・・・えっと―――・・・本当に大丈夫か?」
「・・・!!あ、はい、大丈夫です!!ごめんなさい、よそ見してて」
「いや、俺もよそ見してたし。ごめんな、怪我してないか?」

ちょっとのよそ見ぐらいで怪我をさせていたら一大事だ。
またジークに小言を言われる。
それもよく見たら、少女は頬や手を擦りむいているようだった。
やはり、怪我をさせてしまったのではないかと内心焦った。
アルのそんな心情を察してか、少女はふるふると首を振って言った。

「これはぶつかって出来た傷じゃないから。これは―――・・・」

少女の言葉を遮るように、沢山の足音がアルたちの元にやってきた。



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